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最終話 終わらない旅
さんざん快楽を分かち合った陸と清虎は、力尽きてベッドに倒れ込んだ。
息を弾ませた陸が、恨めしそうに清虎を睨む。
「舞台であんなに踊った後で、よくこんなに動けるよね。あー、体中の関節が痛い。俺、明日有給取って移動日の手伝いするのに、役に立てなかったら清虎のせいだよ」
「あっは。役者の体力舐めたらアカンで。せやけど、しばらくこんなことも出来んと思たら、名残りおしゅうて、しゃあないやんか」
陸の隣に寝ころがり、手の甲にキスをする。「堪忍な」と呟いた後、寂しそうに目を伏せた。
「今日、陸が舞台袖から見ててくれたん、めっちゃ嬉しかってん。客と役者だけやない繋がりみたいの感じてなぁ」
さすがに疲れたのか、清虎の瞼は重そうだった。陸に体を摺り寄せて、小さな声でぽつぽつ語る。
「あんな。誰にも言うてないねんけど、ホンマは今日、道成寺踊り切れたら、役者辞めてまおか思うとってん。そしたら陸とずっと一緒におれるやんか」
衝撃的な告白に、陸は思わず体を起こして清虎を見た。
「だ、ダメでしょそんなの。清虎が役者辞めるなんて、絶対ダメだよ」
清虎は目を閉じたまま、「うん」とうなずいて静かに笑う。
「そうやね、やっぱ無理やった。今日は何とか踊り切れたけど、まだまだ直したいとこいっぱいあんねん。俺、もっと上手くなりたい。もっと稽古せな。まだ、舞台に立ってたい……」
もう意識は半分夢の中にいるのかもしれない。後半はまるで独り言のようで、だからこそ本音なのだろうと思った。
「陸、ごめんなぁ」
「なんで清虎が謝るんだよ。あのさ、俺だって……」
陸は反論しかけたが、清虎から寝息が聞こえてきて口をつぐんだ。
穏やかな寝顔を見つめ、清虎の髪を梳く。
「ごめんね、清虎。俺も謝らなきゃいけないことがあるんだ。でも、また明日ね」
清虎の額にキスを落として、陸も目を閉じる。
「おやすみ、清虎。良い夢を」
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