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第7話
どんな顔をすればいいのか分からなかった。器用な人間であれば、困ったように笑うかもしれない。そして、「面白いことを言うね」とさらりとかわす。ただ、アンリな長年、大きく表情を変えたことがなかった。誰とも会わず、話もしないので、笑顔を作ることもなかった。その結果、出てきたのは、引き攣った笑いだけだ。
「ああ、すまない。名乗り忘れていたな。俺はレオンハルト・フォス・アーベル。レオンでいい」
「レオン」
「ああ」
「番うって、どんな意味で使ってるの」
「健やかなる時も病める時も、互いを愛し敬い、人生を共に歩む覚悟を決めるという意味の番のことだ」
アンリの疑問にも、レオンはさらりと返してのけた。アンリの聞き間違いでもなければ、レオンが番うという言葉を勘違いしているわけでもなさそうだ。
「どうして、俺と番うなんて言い出したの」
「最初に見た時から決めていた。俺と番うなら、君しかいない、と」
最初に見た時というのは、とどのつまり、ついさっきじゃないか。
「ちなみに……俺の生まれ故郷では、番は婚姻と等しい。互いの家族にもかかわってくる」
「ああ」
「だったら、言わんとしていることも分かるでしょ。貴族のアルファと番えるのは、貴族のオメガだけ。しかも、見て分かるだろうが俺は男だ」
貴族のアルファには、ずっと女のオメガが好まれていた。オメガの女たちも、小柄で、控えめで、愛らしい淑女であろうと競うほどだ。一方で、アンリは男であり、彼ほどではないが、森で暮らすうちにそこそこ筋肉もついた。
「つまり……」
「やっと分かった?」
万が一、情熱的な一目ぼれがありえたとしても、アンリとレオンに番うなどという選択肢はありえない。彼が引き下がることをアンリは疑わず、レオンの次の言葉を待った。
「つまり、子どもができた時に、どちらが父さんと呼ばれるかの話だろう」
「……全然「つまり」じゃない」
あまりに軽口に、からかわれているのだと思った。普通の社会の常識――今までアンリが生きてきた社会と、おそらくレオンが今生きている社会に変化がないのなら――では、ありえないことなのだ。貴族のアルファが、どこの馬の骨とも分からないオメガに、初対面で番うことを申し込むなんて。夢をふんだんに塗したお伽話でもありえない。
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