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第9話

「俺はアルファと番う気は無い。結婚して、おそらくそれなりの名家であるあんたの家にと嫁ぐ気も、あんたの旅の武勇伝として数回だけ抱かれて、社交界の話題を提供する気もないんだよ」 「火遊び……社交界の話題……ああ、違う。俺はそんなことのために君に告白しているわけじゃない」  せっかく振りほどいたと思った腕を、また掴まれてしまった。しかも、さっきより彼の力が強い。まるで、もう離さないとでも言うように。 「俺は、君とパートナーになるつもりだ」 「パートナー……?」  なんとも耳慣れない響きだった。 「ああ、もとは外国の言葉で……中には番としての意味も含まれるが、ただ首を噛んで結ばれるだけの存在を指すわけじゃない。共に歩み、支え合い、そして何より、互いがいないと生きていけない対等な結びつきを指す」  どうにもぴんと来ない。オメガとは、常にアルファの所有物として扱われる存在だ。 「俺は君に酷いことをしない。今すぐ理解してほしいとも言わないが、俺の気持ちを決めつけることだけはやめてもらおう」  彼は寝台から降りた。 「やっと会えた。ずっと探していた俺の運命の番……」  あの儀式をするのかもしれないとアンリは思った。騎士であったアルファが、姫のオメガに忠誠を誓うという、大昔の物語にある一節。騎士が跪いて、姫の愛を乞う儀式だった。  しかし、レオンがそれをまっとうすることはなかった。  彼が床に足をつき、痛みに悲鳴をあげるまで、アンリは彼が怪我人であることを忘れていた。

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