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第10話

「君は優しいな」  蛇皮の湿布を取り換えていると、レオンがふと呟いた。 「本当に優しい人間なら、こんな辺境でひとり暮らしをしているはずもない」  最終的に、優しい、そんなはずないの言い合いになってしまったので、寝台に押さえつけるようにして寝かした。 「あんたは脚を挫いてるんだよ。処置はしたけど、俺じゃ詳しいことはわからない。ただ、さっきの悲鳴を聞くに、どう考えても安静だ」 「そうだな。全治7日か8日といったところだろう」 「医学の知識があるわけ?」 「専門じゃないし、多くを学ぶつもりもないがな。最低限、旅をするのに必要な知識があればいい」  レオンとしては、幼い頃から、知識を学ぶよりも、戯れに絵を描いている方が楽しかったのだという。ただ、幼少期は身体が弱く、家にはずっと主治医が泊まり込みで備えていた。レオンは彼に懐き、寝かしつけにとねだった話が、退屈な医学知識だったという。 「あんたが森奥に住む謎のオメガと火遊びをしたがっているのも、大人しくしていた幼い頃の反動かもね」 「まったくもって信用されていないな……」 「安心して。怪我人に出ていけというほど鬼畜じゃない」 「それでは、足が治る一週間のうちに、本気を態度で示すとしよう」 「……好きにすれば」  アンリは期間限定で、狭い丸太小屋にレオンを泊めることにした。慣れない森に迷われて、知らない間に白骨死体になられるのも困る。  というのは建前で、もしかしたら、何もなかった日々に現れた闖入者を面白がっているのかもしれなかった。

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