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第11話

 熱が引いたばかりで食欲がないだろうと思っていたが、アンリの手料理だと聞くと、レオンは干し肉の葉の物の卵とじを喜んで平らげた。  あとは寝るだけだというのに、寝台に寝転がっているだけで、なかなか寝ようともしない。絶対安静だとか、熱がぶり返しても知らないとアンリがいっても聞かなかった。  まるで興奮した子供だ。アンリはベッドの端に腰掛けて、揶揄うように彼に言う。 「子守唄でも歌ってあげようか?」 「そうだな。俺が寝るまで、君が傍にいてくれると言うならそれも悪くない。やっと会えたからな。離すものか」  また熱でもぶり返したのか、歯の浮くような、熱に浮かされたような、ふわふわとした言葉を彼は言う。 「ずっと探していた……俺の運命のオメガ……」 「ちょっ……」  何回言うつもりだ、それ……と思っていたら、レオンが上体を起こし、アンリの腰に抱きついてきた。  咄嗟に避けられなかったのは、昔のことを思い出していたからだ。アンリは、こんな風に誰かに抱きついたことなど記憶にない。大好きだった姉にさえ、だ。自分も彼女に、こんな風に素直に甘えられていたのなら、もっと違う人生があったのかもしれない。きっと、姉なら喜んで自分を抱きしめてくれたことだろう。今さら考えても、仕方のないことだけれど。  アンリは姉とは違う。抱き着いてきたレオンを、抱き返すことはしなかった。 「……おやすみ」  彼にできたのは、レオンの手をそっと離し、一言の挨拶を残して、その場を立ち去ることだけだった。

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