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第15話

「こんな時間に、不審者じゃないのか?」 「まだ夕方だよ」  夕飯を食べてはいるものの、森では早寝早起きの生活が基本だ。外はまだ、陽が暮れる少し前だった。 「大丈夫。さっき話してただろ」  扉を叩く音が聞こえると、アンリは椅子から立ち上がって音のする方へと向かった。彼が扉を開けると、そこには一人の男が立っていた。  その男は、森の近くに住む村に住んでいて、十年ほど前のある日「母に持っていけと言われたんです」と砂糖を持ってきた。きっと、アンリが一人で暮らしているという噂を聞いて、不憫に思った婦人の心遣いだったのだろう。  出会った時はまだ少年だったが、今は声が低くなり、もう青年といってもいい。がっしりとした体つきになり、そこそこの大きさだったポットが、とても小さく見える。 「これ、いつものです」  差し出されたのは小さなポットで、いつものという通り、中にはさらさらとした砂糖が入っているはずだ。 「ありがとう。ちょうど切らしてたんだ」 「珍しいですね。いつもは持ってきても、まだ余ってるって言うのに」 「それは……」 「俺がいるからな」  いつの間に歩いてきたのか、レオンがアンリの肩に腕を回す。というか、まだ足は痛むんじゃないだろうか。 「あなたは……?」 「彼は森に迷い込んできた人で――」 「アンリの運命の番だ」 「はぁ……」 「あんたはいきなり何を言い出すんだよ……ごめん。まだちょっと熱があるみたいだ。森で迷って、怪我をしていてね。療養のために泊めてるだけだ。変なことを言っても、気にしないで」 「いえ、そんな……その人と一緒に、砂糖を使った甘いパンやケーキを、たくさん食べてくださいね」  十年来の付き合いと言っても、青年は、いつもアンリに簡単な用件を話し、ポットを渡して去っていくだけだ。今回もその例に漏れなかった。ただ、最後に「お邪魔してすみません。ごゆっくり」と言われてしまったが。  今日は夕方に来てくれたので、家へと帰る頃には夜になっているだろう。アンリは彼にせめて道が開けているところまで送っていこうとしたものの、「二人の時間を大切にしてください」とまで言われてしまった。 「完璧に勘違いされた……」  青年の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、扉を閉めたところでアンリは溜息を吐く。 「問題ない。何も嘘は行っていないからな」  そんなはずがない。彼はおそらく、アンリとレオンを事情があって離れて暮らしている番だとでも思ったかもしれない。 「ところで、足はもう治ったわけ?」  本当に治っているのなら、彼は超人の仲間入りができる。 「実は……滅茶苦茶痛いな」 「やっぱり……別に出てくる必要はなかったのに」 「そうもいかないだろう。誰かが君を訪ねて来たんだ。ただ黙って座っているだけでは、一体どんな奴なのだろうと、気が気ではなかった。足の痛みなど忘れるほどにな」 「……それ、後から痛くなるやつだよ。夕飯を食べたら寝たら。その前に湿布を貼ってあげるから」

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