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第16話
レオンに寝台へと横になってもらい、足首の状態を見る。悪化はしていないようだった。
「そりゃ気になるよな。世捨て人みたいに振る舞って、世界から見捨てられた人間嫌いのスタンスでいるのに、実質、他人に救われているんだから」
「そうじゃない。……訪ねて来たのが、君の想い人だったらどうしようかと思ってだな……」
アンリは思わず笑ってしまった。彼は想像力が豊かすぎるのだ。もはや、想像を通り越して妄想とでも言うべきか。
「そんな人、来るはずがない」
一方で、笑みの中に自嘲が混ざる。
「俺は誰にも愛されないし、そんな資格もない」
ああ、でも、レオンはそんな自分とも、番だかパートナーだかになりたいのだったか。アンリの言葉を聞いて、レオンの瞳が悲し気に揺れる。
違う。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。言い訳じみた言葉を口にしようとして、アンリは戸惑った。彼がどんな表情をしようと、自分にとってはどうでもいいはずだった。彼がここにやって来てからというもの、ずっと調子が狂っている。
「はい、終了」
「おお、蛇の皮じゃない……!」
今足首に貼ったのは、陰干しした薬草だ。今回は煎じて飲むものではなく、麦と水で練って薄く伸ばし、患部に貼る。
「あんなに驚かれたら、同じものを貼るわけにはいかないよ。と言っても、本来は煎じて飲む薬だから、効果があるから分からないけど。それじゃあ、おやすみ」
「待ってくれ。君はもう寝るのか? まだ夕方もいいところだぞ」
「日が落ちたら、俺の中ではもう夜。いつもこれくらいには寝てる。蝋燭ももったいないし。真っ暗な中でも、あんたが起きていたいなら勝手にしていい」
「いや、そうじゃない。ずっと聞きたいことがあったんだ。今、寝台は俺が占領しているだろう。なら、君はどこで寝てるんだ?」
大きくない丸太小屋にあるのは全部で三部屋。寝台がひとつある寝室――つまりはここ――と、テーブルと調理場の部屋、そして倉庫代わりにしている小さな部屋があるだけだった。水は外にある井戸から汲む。そのため、トイレも洗面所も外で、身体を洗いたい時は器に水を入れ、被ったり布で拭いたりがほとんどだ。
要するに、この小屋に寝台はひとつしかなかった。そして、現在それを使っているのはレオンだ。
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