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第21話

 レオンが隣にいては、アンリはまったく眠れなかった。しかも寝返りもうてないとなれば、夜はとてつもなく長い。  ただ呼吸をするだけで、他人と抱き合っていることが分かる。自分のものではない肌の温度と寝息、それから優しく髪を梳く指。  彼が眠った今、指は動かない。ただ後ろからアンリの頭を包み込むように優しく支えている。少しでも身じろげば腕の中からは脱出できる。  しかし、無理に出たいというわけではなかった。アンリはそっと目を閉じ、息を潜める。ただ溶けてしまいたいと思った。このまま境界がなくなり、自分が自分でなくなって、彼の一部になる。そうなって初めて、眠れるような気がした。  慣れない状況では眠気がやってくるはずもなく、アンリがうとうとと微睡み始めたのは、空が白んできた頃だった。  いっそのこと、このまま起きていようか。しかし、瞼は重くなり、考えは浮かんでは靄のように消えていく。最後には、ずっとこのあたたかい微睡みの中に漂ってすらいたいと思った。  アンリは眠りと覚醒を繰り返し、ぼんやりとしていた。隣で動く音がする。レオンが起きたのだろうか。あたたかく、自分を優しく包み込んでくれていた存在が、離れていってしまう。そう思ったら、無意識の内に、ゆっくりと手を伸ばして掴んでいた。すると彼の動きが止まる。離れていく気配も消えた。  近くにいると落ち着かなくなるのに、離れていこうとするのを止めたくなる。自分は確実に矛盾している。まだ数日し か経っていないし、レオンのことは何も知らない。ただ甘い言葉を吐かれただけだ。もしかしなくても、自分は温もりに飢えていたのだろうか。それとも、アルファを求めるオメガの本能か。番を持つことはないと、自分から独りを選んだのだから、どちらにしても認めたくはなかった。しかし、同時に、やはり彼のことは離したくない。  顔を見られたくなくて、アンリは再び、レオンの胸元に顔を埋めた。使っている石鹸は同じものなのに、自分とは違う甘い匂いがして、頭がくらくらする。  レオンも離したくないというように、アンリをぎゅっと抱きしめる。彼も同じ気持ちならいいのにと思った。人を疎み、人に疎まれたオメガでも、離したくないと思っているのなら。

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