23 / 138

第23話

 鶏小屋から卵を回収し、鶏に餌をやってもレオンが起きてくる気配はない。そのため、朝食を作るのはもう少し後にする。  それから、アンリは普段は近づかない場所へと向かった。ずっと閉めきっていた小さな倉庫部屋だ。  あまりにも陽の当たらない部屋なので、中は湿っぽく薄暗い。掃除をしていないため、木箱の中には、うっすらと埃が積もっている。誰もわざわざ扉を開けて入ろうともしない部屋――もっと言えば、アンリ自身が近づきたくない部屋だった。  倉庫部屋と言っても、大量に物が詰め込まれているわけではなく、木箱がいくつかあるだけだ。その中には、アンリのかつてしていた生活の名残が入っている。  彼が館を出なければならなくなった時、生活に必要な品、あるいは生活の足しになるような品を姉から持たされていた。  打ち捨てられた小屋にたどり着いた時、真っ先に小さな町へ行き、中身を換金して修繕費に当てた。それから、余った金で畑や鶏小屋の囲いを作った。  頼れる人も頼りたい人もいなかったアンリは、町へおりて金を手に入れても、人の住む場所で生きていこうとは思わなかった。生きていけるとも思わなかったし、始めの内は、いつか姉が迎えに来てくれるのではないかと、一縷の望みをかけていたからだ。  しかし、アンリのもとに迎えなどやって来ることもなく、木箱の中身はわずかに減っただけで終わった。家にあっても宝の持ち腐れだろうと思うものばかりが詰め込まれているはずなのに、売った時には胸が痛んだ。あの館で過ごしていた時期のことは、もう思い出したくもない。思い出させるような品など、手元に置いていても良いことはないはずなのに。  売っただけでも苦しいのだから、捨てたらどうなるか分からなかった。結局、アンリは記憶ごろ封印するように、木箱を倉庫部屋に押し込んだ。

ともだちにシェアしよう!