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第27話

 明日、レオンは帰る。帰ってしまう。眠りにつく前に、らしくもない焦燥に駆られたせいだろうか。  アンリが目を覚ましたのは、まだ夜が明ける前だった。最初に感じたのは、早鐘のように打つ鼓動。嫌な夢、興奮する夢を見ていたわけでもないのに、じんわりと汗が滲む。それだけなら、ただの風邪だと思えただろう。  次に襲ってきたのは、身体がかっと燃え上がるような感覚。自分を抱きしめている彼の香りが、とてつもなく甘い。頭がくらくらし、身体が震え、指を一本でも動かす度に、痺れるような快感が肌を撫でた。  ヒートが来た。予定よりは少し早く、いつもより症状も重い。近くにアルファがいる影響なのかもしれなかった。  抱きしめている彼の手で、もっと色んな場所に触れてほしいと思う。力強いその腕で、息が苦しくなるほどに抱きしめてほしいとも思う。  急に全身が、特に唇が渇きを覚えた。 「んっ……」  蜜に吸い寄せられるように、彼の唇と、自分の唇を重ねる。渇きがしっとりと満たされているのを感じる。 「……ん、ふぅ……っ」  彼が寝ているのをいいことに、何度も啄むようなキスをした。やがてそれだけでは物足りなくなり、狭間にそっと舌を入れ、舐め、啜る。口腔の熱に夢中になっていると、気がつけば腰が揺れていた。触りもしていないのに、下着はぐっしょりと濡れている。  もっとしたい。してほしい。唇だけじゃない。全身に触れて、揺さぶって、噛んで、犯してほしかった。身体も心も、既に眩暈を覚えるほどの本能に支配されている。 「んん……」  アンリを現実に引き戻したのは、吐息交じりのレオンの声だった。こんなに何度もキスしていては、さすがに起きるだろう。  駄目だ。こんなことをしていては。許しもなく寝ている人を襲うなど、理性もない獣もいいところ。自分は獣ではなく、オメガである前に一人の人間だ。  それに、森に来た時、誓ったじゃないか。もう誰も好きにはならない、誰とも情を交わしはしない、と。

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