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第28話
彼から離れようと、アンリはゆっくりと後退った。隣の部屋へ行き、それでも熱が引かないようなら、外へ出る。互いのフェロモンが影響しない距離をとればいい。
「……っ、ぁ…」
少しずつ彼から離れる度に、身体が拒絶反応を示した。彼から離れたくないと、理性を本能で押さえつけようとしてくる。
怖い。初めて、オメガである自分が怖いと思った。物心ついた時から、お前はオメガだと言われ育てられてきた。発情期についても知っている。その時、近くに相性の良いアルファがいればどうなるのかも。しかし、知っているだけで、何も分かっていなかった。
離れたい。近づきたい。怖い。気持ちいい。感情も本能もぐちゃぐちゃになって息が荒くなる。その内、嫌でも理解した。この震えは恐怖ではなく、来る快楽を期待してのものなのだと。
「あ……っ」
寝台はそれほど広くない。アンリはバランスを崩して床へと落ちた。その時、彼のポケットからこぼれ出てきたのは、しまったままにしておいた首輪だった。しばければと思っていたのにできないまま、ずっと逃げていた。
首輪をしなければ。早く。しかし、アンリが首輪を手に取るよりも、レオンが目を覚ます方が先だった。
「……っ」
目が合う。それだけでもう分かってしまう。身体が言うことを聞かず、オメガとしての自分が囁いている。この身体は彼のためにあるもので、今すぐ捧げてしまうべきなのだと。
「……発情期が、来たのか」
「だめ……来ないで……っ」
それは命令ではなく、もはや懇願だった。そして言葉とは裏腹に、身体は早く彼に近づいてきてほしいと訴えている。着て、首を噛んで、番にしてほしい。そうすれば、自分は全てを貴方に捧げられるから、と。
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