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第30話
「どうして……」
歯を立てた直後、彼は首筋に噛み跡をつけることなく顔を逸らし、自分の腕に噛みついた。力加減などできるような状況ではなく、くっきりとついた歯形からは、じわりと血が滲んでいる。
「……っ、早く、首輪をつけろ……本当は、俺がつけられたらいいが……今の俺では、上手くつけられない……」
噛んでいないもう片方の手で、首輪を渡すというよりは、アンリの目の前に、力なく落とした。
震える手でなんとか首輪をつける。それを見届けて、レオンはそっと息を吐いた。
「よかった……」
取り返しのつかない事態は避けられる。それでも、状況は決して良いとは言えない。オメガのヒートにつられて、彼はラットになっている。互いに発情の熱が呼応し合うように高まり、苦しい。その上、レオンの方は腕に怪我まで負ってしまった。
それでも、彼は優しい声で笑って言った。
「よかった……君を傷つけずに済んで……」
苦しいのに、彼は本気で思っているのかもしれない。番うのなら、互いに愛し合った状態で、対等に、と。
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