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第31話
首輪を付けたことで、緊張の糸は切れた。今までギリギリで均衡を保っていたアンリの理性が、次第に本能へと傾いていく。甘い匂いに全身がふわつき、今、一本でも指を動かせば、たちまち快楽の渦に呑み込まれてしまいそうだった。
「……失礼する」
「あ……っ」
優しく腕に触れられると、甘い、期待するような声が漏れた。
彼は抱きかかえるようにして、アンリを寝台にまで運ぶ。
「……っ」
彼の顔を見上げると、ずっと歯を食いしばっていた。発情期を迎えたオメガの首筋に噛みつきたくてたまらないアルファの本能を、ずっと我慢している。
抱えていた身体をゆっくりと寝台に横たえると、彼は安堵の溜息を吐いた。
「……俺は、別の部屋に行こう」
このまま同じ部屋にいても、ろくなことにはならないだろう。それはアンリにも分かっていた。だから、彼の判断は正しい。正しいのかもしれないが、今のアンリには、物事の善し悪しなど、もう判別できる状況になかった。
彼が欲しい。自分を彼のものにして欲しい。どうしようもないほど浅ましい欲求しか見出せない。
「ここに、いて……」
興奮して動きづらいのか、ゆっくりと去ろうとする彼の袖を引っ張る。すぐに動きが止まった。
「いてくれた方が、気持ちいい……」
アルファの匂いだけじゃない。もはや気配にも、自分は興奮することができるだろう。アンリは濡れて纏わりつく下着を、ズボンごと脱いだ。肌が布に擦れる微かな刺激さえ、彼の前では大きな快楽に変わる。
「あ、んっ、んん……っ」
そのまま、ゆっくりと前の屹立を擦り始めた。指で包むだけでびくりと反応したそれを、いつものやり方で擦っているだけ。それなのに、普段の何倍も気持ちがよかった。
「……やめろ、やめてくれ」
彼の声はひどく狼狽えている。
「どうして……?」
彼にしてみれば、アルファの凶暴な本能が疼くばかりのこの状況で、目の前のオメガを乱暴に抱き潰すことはしたくない。なのに、しようとしてしまう。その葛藤に苛まれるばかりだった。
しかし、アンリは気づけない。二人でいた方が気持ちいいのに、どうして手を離す必要があるんだろう。本当は、快楽の中に閉じ込められてしまった冷静な理性は気づいている。手を離すのが彼のためだ。しかし、その思考は快感を追い求めて手を動かす度に霧散していった。
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