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第34話

「もっと奥までいかないのか」 「あっ、んんっ、挿れてもいいけど……自分の指じゃ、いいところには届かない、から……ぁっ」  気持ちよくなれる箇所を、とんとんと叩く。規則正しい動きではなく、時おりタイミングをずらすと、余計に感じた。 「……っ、他にはどんなことが好きなんだ」 「んっ、あとは……ぁ、ゆび、二本で、ぐちゃぐちゃに、するの、とか……あんっ」  昔、誰かと番う日が来るのならと、途中まで広げようとしたことがある。しかし、キツい後孔は指を二本だけ呑み込むのが精一杯だった。今でも、挿れるだけで充足感に息がしづらくなるが、それすらも快感の種だ。 「あぁ……っ、は、ぁ……っ」 「気持ちよさそうだ……」  私的されて、見破られたようないたたまれなさを感じる。なのに、分かってもらえているという喜びも感じ、身体の感覚が露骨に変化する。じんと痺れるものから、腹の奥がきゅうきゅうと切なくなるものに変わった。実際、窄まりは指をさらに奥へ誘おうと絡みついてくる。それはもうすぐ絶頂に達する合図だった。 「あっ、やっ、やだ……も、……イく……っ」 「……嫌じゃないだろう。気持ちいいのなら」  彼の瞳がうっとりと細められる。  ずっと、発情期の時に達してしまう瞬間が嫌いだった。誰とも番う気なんてないのに、自分はひとりでいたいのに、身体はひたすらオメガの本能で誰かとの行為を望む。そんな自分を、いつもちぐはぐで滑稽な存在だと感じていた。だから、発情期はいつもひとりでじっと耐えていた。早く終われと思いながら、肌に触れるシーツの感触にすら快感を拾ってしまう自分を浅ましく思いながら、耐えていた。  しかし、今はもう、我慢しなくてもいい。熱のこもった眼差しで優しく見つめてくれる彼になら、浅ましい自分も、滑稽な自分も、隠さなくていい気がしたからだ。 「俺に、もっと見せてくれ。蕩けた顔も、淫靡な姿も」 「あぁ、あ、ああああっ」  優しい声に、びくりと腰がはね、中がきゅっと大きく収縮した。のぼりつめた昂りは頂点にきても弾けることなく、その場に留まり続ける。欲望は性器から勢いよくふき出すのではなく、ただとろとろと蜜を零し続けた。 「あ、あぁっ……、イってる……やっ、イくの、止まんな、ああ、あんっ……」  身体はいつまでも火照ったままだ。むしろ、先ほどよりも、さらに強い快楽を望んでいる。目の前の彼を、中に呑み込んでしまいたいと訴えかけてくる。

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