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第51話

 何でもと言われると、つい、話してしまいそうになる。  彼なら、自分の話を――自分のどうしようもない過去を聞いてくれるんじゃないか。  「それは仕方なかった」と言って、受け入れてくれるんじゃないか。そんな甘い考えが頭をもたげる。  それでも、アンリは自分の過去も気持ちも、誰にも話さないと決めていた。この森に来た時に、きつく誓ったと言ってもいい。  結果、レオンに話せるような話題は何もなかった。かといって、黙り込んでしまうのは変だし、彼を落胆させてしまうかもしれない。 「…………あんたは、ケーキみたいな男だ」 「ケーキ?」  口をついて出て来たのは、何の意味も無い比喩だった。 「知らないのか? 穀物を練り、酵母で膨らませて、砂糖や果物で甘みと酸味を足したものだ」 「それくらいは知っているぞ。母が作ったものを食べたことがある」 「奇遇だな。俺の姉も、よくケーキを作ってくれた」

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