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第52話

 本来、貴族の屋敷には専属の料理人が雇われていることが多いが、貴族の中には、自ら厨房に入ることもある。  それは使用人たちと交流するためでもあり、中には趣味として料理を学びたいと考える者もいる。  姉もよく、料理人に習って、週末にケーキを焼いていた。アンリにとって、忘れたことはなかったが、思い出したくはない記憶だった。 「姉が作るのは、フルーツの入った普通の焼き菓子だけど……砂糖の寮が多すぎて、食べる度に甘ったるいと思ってた」 「つまり、俺が甘い男だと?」 「他にどう読み取れるんだ」  しかし、アンリは姉のケーキが大好きだった。  一切れ食べると、もうしばらく甘い物は食べたくないと思うのに、少し経つとあの甘さが恋しくなる。  週の半ばを過ぎる頃には、早くまた姉がケーキを焼かないかと待ちわびるほどだった。  この話を伝えたら、レオンを好きになったのだと思われるかもしれないから、絶対に言わない。アンリは彼を好きになれるかもしれないが、好きだと伝えるつもりはなかった。  ケーキのように甘ったるい男は、「君の話を聞けて嬉しい」と木陰から出てきてしまったものだから、鶏に威嚇されていた。

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