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第55話

 本当に、優しさではなく傲慢な理由だった。  家族を殺しかけたこの手でも、助けられる存在はいるのかもしれない。  理由は、ただそれだけだ。不毛な、私欲に塗れた、優しさとはほど遠い行為。  自分の手で拾っておきながら、リスが離れていくと、寂しさと同時に安堵も感じた。やはり自分は誰にも好かれない存在なのだと、確信できたような気がしたからだ。 「初めてリスを拾った時、翌年になって後悔した。一度人の手を加えてしまったら、野生に戻れなくなるかもしれないと本で読んだから。その後、リスの死骸は見ていない。だからあの時のリスが生きているのか、死んだのかは分からなかった。……後悔しているくせに、自己満足のためにまた拾ってくるんだ。それでもまだ、俺を優しいと言えるのか?」  最初、レオンは驚いた顔をしていた。それから、珍しく長い間考えて、ようやく口を開く。 「そうか。君はただ優しいだけじゃなくて……とても人間らしい。俺が勝手に思い描いた理想ではなく、本当の君を知れて良かった」 「……なんだそれ」  本当は、この時に気づくべきだったのかもしれない。レオンはこの森でアンリに一目ぼれしたのではなく、本当は、以前から知っていたのだと。  しかしアンリは心を鈍くしたままで、鳥籠の奥に引っ込んだリスの揺れる尻尾を、そしてそれを描く彼の手を、交互に見つめていた。

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