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第58話
それでも、アンリは怖かった。伝えたとして、レオンが拒否することはないだろう。
保証が欲しい。彼が、自分を拒否しないという保証だ。取り返しのつかないところまで行きつき、戻れなくなったら、それは保証になるのだろうか。
「指じゃなくて……挿れて……首筋も、噛んでほしい……っ」
「駄目だ」
「なんでだよ……っ」
泣きそうになるのは、気持ちいいからか、彼に駄目だと言われたからか、もう分からなかった。
「番になるのは、ちゃんとしてからだ」
ちゃんと、とは、どういうことだろう。貴族だから、互いの家に挨拶をしに行くとか、盛大な挙式を開くとか、必要な儀式がいくつもあるのだろうか。そんなこと、罪人として森に追われたアンリには、できるはずがないのに。
「性急にではなく……互いに想いが通じ合って、俺しかいないと……何があっても、俺と未来を紡いでいきたいと、ヒートではない時に君が思ってくれたら、番になろう」
アルファとオメガは、貴族となれば、家柄を重視し、見ず知らずの者と初対面で番うこともある。そんな風に考える彼は、貴族社会では異端中の異端だろう。
そして、アンリはそこまで考えて、レオンのことをあまり知らないことに気づいた。
知っているのは、昔は身体が弱かったこと。しかし今はすっかり健康になったこと。修学の旅の途中で、絵を描くことが好き。ここの鶏たちにはあまり好かれていない。そして、自分のことを好きだと言ってくる。
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