59 / 138

第59話

 リスは相変わらず、二人のどちらにも懐かない。  臆病なのか、四六時中、四方八方を警戒し続け、よく疲れないなとアンリは思った。  いっそのこと、逃がした方がストレスなく過ごせるのかもしれない。しかし、この寒さの中で外に出すのは、死にに行かせるようなものだった。  しがらみから解放されて死ぬのか、縛られたまま生きるのか。どちらが幸せなのかは、当のリスでない限り知る由もない。それでも、リスを逃がしてやろうとは微塵も思わなかった。  リスに与えているのは、干して乾燥した木の実だった。いつも通りの時間に餌をやろうと、アンリは鳥籠から餌皿を取り出す。  その時、陶器でできたそれが少し欠けていることに気がついた。このままでは怪我をさせてしまうだろう。  餌皿の代わりになるような物は、倉庫部屋にあっただろうか。できれば、欠けたり割れたりしないものが良いだろう。  倉庫部屋に足を踏み入れると、真っ先に目に入るのは、レオンの荷物だ。彼はデッサン用の紙数枚や鉛筆は持ち歩くものの、重いイーゼルや数ある画材の内のいくつかは、この部屋に置いていた。それから、彼がここに来た時に放り投げていた麻袋も。  あれだけ埃っぽく手つかずになっていた部屋に、今さら新しい物が増えるなど、しばらく前のアンリは想像すらしていなかった。  それらの荷物は、部屋の手前一角を占領中。跨いで奥の箱を見てみようとしたところで、爪先がひっかかる。躓いたくらいで転びはしないが、麻袋を少し蹴ってしまった。

ともだちにシェアしよう!