母は屋敷の主であるミレーヌの父と再婚したようだった。 　詳しいいきさつはアンリには分からなかった。新しく父となった男は愛した妻と死別しており、母とは幼馴染みだったと聞いている。 　二人の間に恋や愛があったのか、それとも単なる同情だったのか、今となってはアンリには知る由もなかった。しかし、時おり、二人が夜にバルコニーで静かに言葉を交わす姿を見ることがあった。 　それ以上、アンリにはあの夫婦のことは分からない。というのも、父となった男とは、ほとんど離さなかったからだ。自己紹介では、互いに名前を名乗っただけ。夕食の時だけは家族四人がそろうが、特に会話はなかった。 　そんな父と比べると、義姉となったミレーヌとは、よく話をした。正確には、アンリが一方的に話しかけられている だけだったけれど。 「アンリって、あんまり笑わないのね」 「……だって、笑えることもないし」 　淡々と答えると、「まっ、生意気！」と言われた。生意気なら話しかけなければいいのにと思うが、仲良くしましょうという彼女の言葉は、本気だったのだろう。 「でも、楽しい会話をしたら、自然と笑えてくるものじゃないかしら？」 「楽しい会話……」 　分からない。したことがない。今している姉との会話も、楽しいかどうかなど、アンリには分からなかった。そもそも、ほとんどオウム返しばかりのこの状況が、会話と言えるのかすら分からなかった。 「分かったわ。だったら週末に、私が楽しい会話の場へ招待してあげる！」