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第70話

「……疲れた」  質問攻めにあい、パーティーがお開きになる頃、アンリは中庭の端に置かれた椅子の上でぐったりとしていた。もう指一本も動かしたくないほど疲れきっていた。 「ご、ごめんね? みんな、私から弟の話を聞いて、すごく楽しみにしてたのよ! それで、いざ本物を見たら舞い上がっちゃったんだわ!」  たしかに、アンリはまるで珍獣のような扱いを受けていた。  ミレーヌは、ぐったりとしたままその場から動こうとしない弟を見て狼狽えていた。よほど疲れたのだと思われているが、アンリは動きたくないだけであって、動けないわけではない。  ただ、おろおろとする姉の珍しい顔をまだ見て痛くてぼうっとしているだけだ。 「そ、そうだわ!」  何かを思いついたように、ミレーヌは手を叩き、その場を去っていった。しばらくすると、小さな銀の皿を手に戻ってくる。  皿に載せられていたのは、小さな焼き菓子だった。形は悪いが、おそらくケーキなのだろう。ふっくらとした茶色の記事の中には、砂糖漬けされた色とりどりの果実が散りばめられていた。

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