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第71話

「疲れた時こそ、甘い物がいいのよね。料理人に教えてもらって、私が初めて作ったのよ。自信は、ちょっとだけ……」  彼女の声はしりすぼみになっていき、最後の方は聞こえなかった。だから、自身があるなのかないなのか、判断がつかない。もしかしたら、体のいい味見係にされただけなのかもしれなかった。  客人たちがいなくなった中庭の隅で、夕暮れの蜂蜜色に照らされたケーキを、小さなフォークで切り取り、口に運んだ。 「…………」  甘い。甘い以外に、アンリにはこの味を形容する言葉を知らなかった。ただでさえ砂糖に漬けられた果実の甘みが染み込んでいるのに、さらに砂糖の味がした。ケーキの上部分にも溶かした砂糖がトッピングされているからか、自然と甘さと、とってつけたような甘さと、ざらざらとした甘さが舌の上に襲いかかってくる。 「どう? どう?」  ミレーヌはそわそわしながら尋ねてきた。いつもは、アンリと違って自信満々の笑顔でいる姉だ。誰とでも朗らかに話すし、心配事など何もないという顔をしているのに。  そんな姉が、不安そうに、自分の感想を求めてくる。それがたまらなく可笑しかった。いつものように、「私が作るのだから美味しいに違いない」くらい言えばいいのに。 「……今、笑ったわよね?」 「え……」 「え、じゃないの! 私、ばっちり見たわ。可愛い笑顔だったもの!」 「それは……」  感想を聞きたくて一喜一憂する目の前の姉が面白かったから、とは言ってはいけない気がした。気の強い彼女のことだから、言えば怒ってしまうかもしれない。

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