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第72話
「……ケーキが、おいしかったから?」
「どうして疑問形なのよ!」
今度は、姉が可笑しそうに笑う。
「でも、よかったわ。料理人は、「僭越ですがお嬢様、砂糖を入れすぎでございます」とか言ってくるし。招いたお客様たちも、砂糖がかかっているのを見て「これ以上食べたら太っちゃうもの」って遠慮しちゃうし」
要するに、アンリに持ってきたケーキは、余り物だったというわけだ。しかも、客人にもろくに手をつけてもらえなかったという。初めて作ったのに感想ももらえなかったのかと思うと、不遜な姉が妙にいたいけに見えるから不思議だった。
「……俺は、おいしかった……と思う」
やや棒読みになってしまったが、ミレーヌは細かいことなど気にせず、「やった!」と嬉しそうに飛び跳ねている。
「ひとりでも美味しいって、好きだっていってくれたら、それで勝ちなのよね!」
彼女は一体、誰と何の勝負をしているのだろう。そんな疑問を余所に、アンリは目の前の甘すぎるケーキを少しずつ食べ、気づけばぺろりと平らげてしまった。
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