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第73話

 それからというもの、アンリは週末、ずっとパーティーに参加していた。といっても、端で姉の焼いたケーキを食べているだけだ。余らせるのはもったいない。それだけが理由だった。  しかし、いつしか毎週末の日課になり、楽しみに変わっていく。姉のケーキは、くせになる甘さだった。  一方で、アンリは客人たちと積極的に話そうとはしなかった。最初は、尋ねられたことに返事くらいはしていたが、面白い話のできないアンリに飽きたのか、弟の存在が珍しいものでもなくなったのか、最近は誰かに話しかけられることもなくなった。  アンリはオブジェのように隅の椅子に腰かけ、そこかしこで行われている会話に耳を澄ましながらケーキを頬張るだけだ。  ゆるい集まりに参加し始めて一年。それまでに、様々な変化が訪れた。アルファとオメガの違いも、自分の身体の作りについても、知らされることになった。いずれどこかのアルファに手ほどきをするかもしれないという理由で、性行為の方法も、家庭教師から叩き込まれた。  本当は、そんな教育を受けたくなかった。というのも、家庭教師が男体のオメガに良い想いは抱いていないようだった。「こんな子ども、仕込んだところで何になる」「どうせ嫁ぎ先なんて見つからないくせに」。眼差しからは、そんな嘲笑う声すら聞こえてくるようだった。淡々と性器の解説を受けながら教師の前で脚を開く自分は、ひどく惨めな存在に思えた。  午前中にそんな講義を受けたばかりだったから、アンリは中庭でもぼんやりしていることしかできなかった。

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