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第78話

「気にしなくていいよ。俺はどこにも嫁がないから」  嫁がない。嫁ぐ気は無いし、嫁ぐこともできないだろう。俗っぽい言い方をすれば、珍しい男のオメガが、どれほど貴族のアルファに受けが悪いか、教育を受けた後のアンリはもう知っていた。社交界で、オメガがアルファから、どのように見られているのかということも。 「選ばれたのは姉さんの方だ。先方の意思を尊重しなよ」 「でも……」 「……俺だって、自分か姉さんなら、姉さんの方を選ぶから」  だから、こちらのことは放っておいてくれればいい。自分のことだけを考えて、施しをしようなんて微塵も考えないでいてほしい。  話はここまでとばかりに、アンリは部屋を出た。これで上手く婚約の話がまとまるだろうと思ったのに、後ろから追 いかけてくる足音が聞こえる。 「待って……待ちなさいよ!」 「……何」 「なんで、あんなこと言うのよ……あんな、諦めてるみたいな……っ」 「諦めてるも何も、事実だから」 「私たちと藍ての人たちで、まずは話し合ってみるべきだと思うの。それから、ちゃんと選んでもらうべきだわ」 「そんなことしても無駄だと思う」  アンリは男のオメガである上、口下手で、面白いことも言えない。明るい性格でもなければ、華やかな容姿をしているわけでもない。

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