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第79話

「……私、無駄って言葉は嫌いよ」  嫌い、の部分が、アンリの頭の中にこだまする。彼女はアンリに言ったつもりでもないだろうに。 「私は前に言ったわ。いつか、絶対、貴方を好きになる人が現れるって。それがたまたま私の方に婚約の話をもちかけてきたアルファかもしれないでしょう?」  それから、姉は捨て台詞のように、「諦めてほしくないの」と言った。 「……初めて会った時、貴方はずっと俯いていたわ。しばらくしたら、笑いかけてくれるようにもなったけれど……それでもまだ、たまにあの時と同じ顔をするの。自分のことが好きじゃないって顔だわ」  好きになれるものなら、聞いてみたい。生家では誰ともろくに話してもらえず、自分のせいで母と二人追い出されて、この年になったらなったで、向けられるのは値踏みの末と選別だ。 「無理矢理、押しつける形になってしまったことは謝るわ。でも、私、アンリには自分のことを好きになってほしいの。ずっと笑っていてほしいとも思うわ」  言いたいだけ言ったら満足したらしく、彼女は去っていった。 「お父様から、一週間ほど猶予をもらったの。その間に、貴方も考えてみて」  という一言を残して。

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