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第83話

 その知らせを届き、アンリを呼び出したのは義父だ。義  父の仕事部屋にもなっている書斎に入った時、彼の表情は強張っていた。隣には母がいる。俯いていて、彼女の表情までは分からない。  姉は誤って毒物を摂取し、今は昏睡状態にあるという。原因は昼間に食べた木の実だと医者は判断した。  その実は、アンリがかつて酸っぱさに驚いたあの赤い木の実とよく似ているが、実はまったくの別物で、強い毒素を含んでいるのだという。そして、その実を摘んできたのはアンリだった。  父はそこまで一息に説明し、息を切らしたように肩を上下させた。アンリは、「何か知っていることはないか」と聞かれると思っていたが、これは違う。父の瞳は怒りを通り越して、憎しみで燃えているようだった。  派手な音が部屋中に響き渡る。アンリの頬を、父が張り飛ばしていた。世界が揺れ、部屋の天井が見える。次に、腹部に息が詰まるような痛みが走った。 「……っ」  舌の上で血の味が広がる。口の中を切ったのだろう。上手く息が吸えない。上手く言葉を喋れない。しかし、アンリには何かを話す余地も与えられず、何度も何度も蹴られた。

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