88 / 138
第88話
最初の内は、どうしようもない考えだけが、頭の中にあふれかえっていたというのに。事件の真相。自分の今後。思いを馳せる度に、あの使用人に言われた言葉が頭の中をぐるぐる回る。
自分のことばかり。本当にその通りだと思った。話し相手もいない上に、何も飲まず食わずとなると、悪い考えばかりが助長されていく。
自分は最低な人間で、だからこんな場所に入れられたのではないか。やってないとずっと言っているが、実は記憶がないだけで、夢遊病のように、何かにとり憑かれたように犯行へと及んだのではいか。
想像でも嫌な結末へと辿り着きそうになり、考えることを止めた。ただ、灰色のひび割れた天井を見つめ続ける。
しばらくすると、姉がやってきた。いつものように、アンリが手の付ける様子のないスープを、使用人が持って行ったあとだった。昼間、姉がここに来るまで、誰かに気づかれないはずもないのだから、きっと今は夜なのだろう。アンリはぼんやりとそんなことを思った。
姉は息を潜めながら、牢の鍵を開けた。
「来て!」
腕を掴まれ、引っ張られる。痛いと言っている余裕もなく、「早く!」と急き立てられた。
ともだちにシェアしよう!