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第89話

 アンリが閉じ込められていたのは、地下牢だったらしい。  足音が反響する狭い道を、早足で進んでいく。あちこちを曲がりながら進み、地上に出た時、辺りは薄暗かった。曇っているのか、星は見えなかった。  中庭の茂みに隠れながら、裏門へと進む。そこには、馬車が停まっていた。 「乗って!」  押し込められるように馬車に載せられた後、続いて姉も隣に乗って来た。その様子を確認して、御者は何も言わずに馬を走らせる。 「ごめんなさい……こんなことになっているなんて、思わなかったの」  姉は、義父はすっかり怒り狂っていたと教えてくれた。そして、アンリを牢の中で一生幽閉させるつもりで、衰弱死しようと構わないと言っていたことも。 「私には、遠縁の叔母様がいてね、動物や絵を描くことが好きな方で……今はそんなことを話している場合じゃないわね。とにかく、彼女は森の奥に小屋を持っているのよ。趣味のために使うんですって。最近では子育てが忙しくて、まったく行ってないそうだけれど」  姉は、自分にそこで暮らしてほしいと言った。

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