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第97話

 もう、生にしがみつく必要はない。  先ほどまで浅くしかできなかった呼吸が、ふと楽になった。大きく吸って、吐くと、冷たい空気が肺いっぱいに広がった。  一歩ずつ足を進めていくと、すぐに崖の先端まで来た。もうちょっと、進んでいけば――。  体は、急に動かなくなった。  足が震え、その場にへたりこんでしまう。  歩けないのなら、あと少しだけ身を乗り出せばいい。そうすれば、全てが終わるのに。 「なんで……動かないんだよ……」  前に来た時も、同じだった。体が動かず、自分を殺し損なったという惨めな気持ちだけが残った。  また、あの時と同じで、自分は前に進めないのか。 「それ以上進むな!」  崖先で呆然と座り空を見上げるアンリの手を、誰かが思いっきり引っ張った。あまりにも強い力で、腕が千切れてしまうのではないかと思うほど痛かった。  そのまま勢いがついてバランスを崩す。彼も抱きとめきれなかったようで、アンリを抱きとめたまま、レオンは後ろに倒れ背中を打った。 「何を考えてるんだ! この馬鹿!」  アンリが立ち上がろうとしても、きつく抱きしめられ、話してはもらえない。レオンの声は、泣きそうになっているのか、少し震えていた。

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