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第98話
抱きしめられ、しばらくは沈黙があった。
レオンの身体が熱いのは、アンリを探し回っていたからだろうか。肩が震えているのは、動揺しているからだろうか。
全部、自分のことがすきだからだろうか。
そんな都合の良い考え方を、してもいいのか分からない。
何も話さないのならと、身を捩って起き上がろうとする。しかし、どこにも行くなとでも言うように、もっときつく抱きしめられた。
「死のうとなんてするな……馬鹿……」
それは、二度目の「馬鹿」という言葉だった。アンリへ賛辞ばかりを贈ってばかりだった彼が初めて発した、諫めるための、優しい言葉だった。
「……どのみち、死ぬ勇気なんてなかったよ。足が震えて、前に進めなかった……怖かったんだ」
安心させるように、そして彼が自分から離れてくれるようにと思って、アンリは言った。それでも、レオンは頑として、アンリを抱きしめたまま離そうとしない。
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