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第99話

「死のうとすることが問題なんだ。俺の前から消えようとするな」 「どうして……」  彼は、アンリのことを探っていただけだろうに。アンリが何をしようと、彼の家に危害が及ばない限り、彼には止める権利も義務もない。さすがに目の前で死なれたら寝覚めも悪いだろうが、ふらりといなくなることくらいはいいだろう。 「俺が悲しいからに決まっている! お前がこの世界からいなくなるなんて、考えただけで目の前が真っ暗になるぞ。本当にお前がいなくなれば、俺には生きる希望がない。あまりの悲しみに後を追ってやる!」 「……君は、そんなことしない。するはずがない」  家柄のいい、若いアルファ。彼の前には、広い世界と輝かしい未来は広がっているのだから。アンリに構って、全てを捨てる必要はないはずだ。 「お前は知らないからそんなことが言えるんだ! 知らないだろう! 言葉にしても、態度で示しても……俺がどれだけお前を想って生きてきたのか、伝わってなかったんだろう……」  沈んだ声だった。ショックを受け、気落ちしているのかと思い、アンリは顔を上げる。やっと、彼と目が合った。 「教える……好きだという想いだけじゃなく、俺のことを全部。もっと早く伝えるべきだったんだ」  二人してようやく起き上がる。転がるようにして倒れ込んだから、アンリもレオンも、身体のあちこちに擦り傷ができていた。  彼は手当てをしながら、ここに来た理由を話すと約束してくれた。

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