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第104話
気になって、レオンは少年のことをたくさん聞いた。
レオンの叔父である幼い少年――アンリはある日、生家を追い出されて姉の屋敷にやって来た。
その時はにこりとも笑わない子だったと姉は言った。
「自分が追い出された事情を、子どもながらに察していたのかもしれないわね」
不憫に思ったのか、新たな家族を歓迎していたのか、きっと両方だろう。ミレーヌは笑ってほしいからという理由で、アンリを思いっきり甘やかした。
「ケーキを焼くようになったのも、その頃なのよ」
そう言われて、レオンは母がたまに焼くケーキを主負い出した。奥様である彼女が料理をしていては、使用人の立場がないと言われるから、普段はあまりしていない。しかし、たまの休息日、使用人のいないキッチンで、シンプルな焼き菓子を作っていることを、レオンは知っていた。
以前、彼女が味見をしているところに遭遇し、食べさせてもらったことがある。
『立場があるから、大っぴらには言えないけれど……お父様も、このケーキが大好きなのよ。結婚記念日には、二人で庭を眺めながら、このケーキを食べてるの』
そう言って、母は笑った。一切れもらったそのケーキは、砂糖漬けにされた果物がたっぷりと入ったうえに、砂糖もかけられ、さらに上からは蜂蜜もかけられ、かなり甘かったことを覚えている。
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