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第105話
絵の中の少年アンリも、自分と同じ焼き菓子を食べていたのだろうか。そう考えると、じゃりじゃりとした食感の、胸やけしそうなほどに甘いあのケーキが、レオンにとっては優しい甘さとなり、胸をくすぐるのだった。
「でも、ある日事件があって……結局あの子は、アンリは、私のせいで、また笑えなくなってしまったの」
じゃあ、自分が彼を笑顔にしよう、などという殊勝な気持ちが、レオンにあったわけではない。
病弱な次男坊とはいえ、彼は由緒正しき旧家に生まれ、体調が良い時には、相応の教育を受けている。向上心もプライドも立派にあった彼は、こう考えた。
自分なら誰に何と反対されようとも、彼に会いに行く。誰も笑わせられないのなら、自分が彼を笑顔にするのだ、と。
それから、レオンは仏頂面の少年の笑顔を思い描きながら、床に就くようになった。すると不思議なことに、辛い喉の痛みや頭の痛み、熱が和らぐように感じられた。
寝付けない夜は、アンリのことを考えた。今、彼はどこで、何をしているんだろう。早く、彼のもとに行きたい。彼の笑顔を見たい。
当時のレオンは、幼すぎて、一目ぼれという言葉すら知らなかった。恋や愛については、考えたこともない年頃だった。
それでも、絵の中の少年のことを考える度に、春の花が咲くように、陽だまりの中にいるように、心があたたかく、少しだけ苦しくなるのだった。
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