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第106話

 レオンが絵を描き始めたのも、その頃だった。きっかけは、母のペンダントに入った絵を欲しがったけれど、もらえなかったから。彼も、母が大切にしているものを無理に奪いたくはない。ならば、描き写せばいい。単純なきっかけだった。  幸い、主治医にはわずかながら、絵心があった。病に伏せ、寝台に寝ていてばかりでは気力も落ちる。何か夢中になれるものがあった方がいいと、主治医はデッサンのやり方や、色の混ぜ方といった基礎を彼に教えた。  最初は模写ばかりしていたレオンだったが、次第に、自分が見たいものを空想しながら描くようになった。家族みんなで母の焼いたケーキを食べるところ。健康になり庭を走り回る自分。それから、仏頂面の少年の笑顔。  その頃、レオンはアルファとオメガについての基本も聞かされた。病弱故に、オメガではないかと周囲には思われていたが、調べたところ、アルファだということが発覚した。  そして、自分が恋焦がれる少年はオメガだったと教えられた時、思わず手放しで喜び、翌日に熱を出したほどだった。番になれる。番というのはどんなものなのかはわからない。それでも、父と母のように、一緒に暮らすことができるのだと、無知ながらにレオンは考えた。  彼と家族になれる。そう思うと胸が高鳴り、身体がかっと熱くなった。主治医は熱のせいだと判断したが、レオン本人には、もっと別の理由があるように思えてならなかった。

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