110 / 138
第110話
「病床にあって、君は俺の唯一の希望だった」
ただの幼い恋で、しかも一目惚れ。そんなものを宝石のように後生大事に磨き続けていたのだ。呆れられることはレオンも覚悟していた。
しかし、アンリは笑いも茶化しも呆れもせず、ただレオンの話をじっと聞いていた。時おり、信じられないというような顔はしていたけれど。
そんな顔も、また好きになった。絵筆をとり、すぐさま描きたいところだが、今はそれよりも伝えたいことがある。
「君が家を出ることになった経緯についても、俺は知っている」
そう話すと、彼の顔は俯き、また曇っていく。
「自分なりに調べた。母にも、当時働いていた庭師にも聞いて……」
「じゃあ、どうしてわざわざ俺に会いに来たわけ。調べたなら、俺が姉さんを殺そうとしたことも知ってるはずで……」
「していない」
彼ははっきりと、疑いなど微塵も込めずに断言した。
「君は、俺の母を殺そうとなんてしていない」
レオンはアンリのことも、彼を調べつくして辿り着いた自分の執念の結果も、信用に値すると判断した。
ともだちにシェアしよう!