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第110話

「病床にあって、君は俺の唯一の希望だった」  ただの幼い恋で、しかも一目惚れ。そんなものを宝石のように後生大事に磨き続けていたのだ。呆れられることはレオンも覚悟していた。  しかし、アンリは笑いも茶化しも呆れもせず、ただレオンの話をじっと聞いていた。時おり、信じられないというような顔はしていたけれど。  そんな顔も、また好きになった。絵筆をとり、すぐさま描きたいところだが、今はそれよりも伝えたいことがある。 「君が家を出ることになった経緯についても、俺は知っている」  そう話すと、彼の顔は俯き、また曇っていく。 「自分なりに調べた。母にも、当時働いていた庭師にも聞いて……」 「じゃあ、どうしてわざわざ俺に会いに来たわけ。調べたなら、俺が姉さんを殺そうとしたことも知ってるはずで……」 「していない」  彼ははっきりと、疑いなど微塵も込めずに断言した。 「君は、俺の母を殺そうとなんてしていない」  レオンはアンリのことも、彼を調べつくして辿り着いた自分の執念の結果も、信用に値すると判断した。

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