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第111話
「確かに、籠には毒の実が入っていたんだろう。しかし、それは君のせいじゃない。君の罪なんかじゃないんだ」
優しく諭すような、わだかまり、絡まり、ぐちゃぐちゃになった糸をそっと解いていくような口調と眼差しだった。彼が解そうとしたのは、頑なになったアンリ自身だ。そして、あの日言えなかった言葉を言わせようとしてくれている。
「そうだよ……やったのは、俺じゃない……」
アンリは二十年の中で、初めて、口に出した。震えた声だった。
「木の実だって……姉さんが喜ぶといいなって、思って、摘んだんだ……。あの時も……別れ際に、姉さんに手を伸ばした時だって、俺は……本当は……」
一度、ぎゅっと唇を噛んだ。ずっと言えなかった。言葉にしたら、恨みがましい声が絞り出されるのではないかと疑ってしまったから。心の底から抱いた想いに、汚い色が混ざってしまうのではないかと、恐れていたからだ。
「俺は……本当は、姉さんに……幸せになってって、言いたかったんだ……」
ずっと言えなかった。だから、ずっと考えていた。どうすれば言えたんだろう。どうすれば……あの時、拒絶されずに済んだんだろう。しかし、何度も何度も、巡り巡っては同じ考えに辿り着く。信用してもらえなかった自分が悪いのだ、と。
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