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第113話

 アンリは、声を出しても誰にも聞いてもらえない、手入れの行き届いた屋敷よりも、声を出す必要のないくらい森を選んだのだった。 「納得がいった」  誰にでもなく呟くように、レオンは言った。 「何に……?」 「……君は、崖から落ちる一歩が怖くて踏み出せなかったと言った。しかし……それ以上に、踏み出せない理由があったんじゃないか?」 「……理由なんて、ないよ」  本当に怖くて、躊躇っただけだ。アンリを追いかけてきたのなら、レオンもその一部始終を見ているはずだった。 「しかし、お前は森に来た時は恐怖なんてなかったと、いつでも人生を終わらせられることに安堵したと言ったんだ。それでも躊躇ったということは、まだ……人生を終える前に、まだしなければいけない何かがあるんじゃないか?」 「それ、は……」  彼の言う通りだ。死んだって後悔はないと思ったのに、踏み出す間際に一瞬、心残りが頭を過った。叶うはずがないと思っていても、叶えられる瞬間を夢見てしまった。 「教えてくれ」  彼はアンリに向かってゆっくりと言った。 「叶えられる夢ならば、俺と一緒に叶えに行こう。しかし、叶ってもそれで終わりとは言わせない。また新しく、この世界に君の心残りを作り出す。そして、俺とずっと生きたいと思わせてみせるから」  それでもアンリは口に出すのを躊躇った。すると、両手をとられ、落ち着かせるように優しく撫でられる。

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