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第114話
「お願いだ、言葉にしてほしい。一緒にいた間、君は確かに饒舌ではなかったが……それでも、共に話をしただろう。君の中には、たくさんの想いが眠っているように見えた。君はまだ、その想いを、誰にも届けてないだろう」
「……届ける必要なんて、ないと思ってた。だって、俺の声は誰にも届かないんだから……」
「今は、俺がいるだろう。目の前にいて、君を見ている。声も、ちゃんと聴いている」
彼の両手はあたたかい。まるで、大丈夫だと言われているようだった。
「……どうして、あんたは俺にほしい言葉をくれるんだろう」
アンリは顔を上げると、レオンは不思議そうに首を傾げていた。
「……崖に行ったのは、あんたが俺を探りに来て……俺はまだ、あの家の人に疑われてるんだって、疑われ続けてるんだって思って絶望したからだ。でも、いずれは独りに疲れ切って……遅かれ早かれ、限界は着ていたと思う。その時は、躊躇わずに崖の下に落ちたかもしれない。……あんたと出会わなければ、俺はあそこで踏みとどまらなかった」
怖くても、前に進めば終われると分かっていたのだ。しかし、終わりに向かう足を止めたのは彼だった。
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