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第118話

 誰にも会いたくないのなら、会わなくていい。レオンは甘やかすようにそう言った。その結果、彼が生家の屋敷に向かう中、ひとり宿屋にいた。  学び終えた後は、やっと会えた初恋の相手と生きていく。そんなことを、しきたりに厳しい旧家が許すとは思えなかった。  アンリは男のオメガで、レオンとは二十近くも歳が離れていて、関係は血が繋がっていないとはいえ叔父と甥だ。もしかしたら、あの事件の後、ルネット家から戸籍が抹消されているかもしれない。その場合は戸籍上の関係はなくなるが、それでも、アンリが肉親を殺しかけたという汚名はついて回る。どう転んでも、二人の関係が許されるはずはなかった。  それでもレオンについていこうと思ったのは、彼は親から許可をもらった後で、アンリに伝えたいことがあると言ったからだ。おそらくは、番になりたいということだろう。その言葉に、アンリはすぐ「はい」と答えたかった。  彼のことを、好きになれる、好きになりたいとアンリは言った。しかし、あの時はっきりと「好きだ」と断定しなかったことを、今は猛烈に悔いている。  アンリがすべてを終わりにしようとしたあの日から、馬車に揺られてこの宿屋に着くまで、ずっと彼の隣にいた。その間、彼の眼差しが、仕草が、そして言葉が、どれも雄弁にアンリへの好意を伝えてきた。レオンの想いが分かると、アンリは胸がぎゅっと締め付けられるような、全身が溶けるような甘い感覚に支配され、その場から動けなくなる。やっと動けるようになったと思っても、目は彼の方ばかりを見て、視線は彼ばかりを追っていく。

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