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第119話
知らなかった。触れ合うと心地いいのも、隣にいると居心地がいいのも、最初はただ相性の良いアルファとオメガだからと思っていた。
しかし、彼がベータだったとしても、自分がアルファだったとしても、アンリは彼の隣にいたいと思う。
好きという気持ちを味わわずに大人になったから、この想いが彼の伝えてくる「好き」と等しいものかは分からない。それでも、彼が身の振り方を決めて、もう一度自分に好きだと言ってくれたその時には、伝えようと思っていた。「俺も、あんたとずっと二人でいたい」と。
部屋の椅子に腰かけていても落ち着かず、アンリはずっとうろうろと動き回ってしまう。
ついてきたリスは、そんなアンリに苛立ったのか、しきりに扉をかりかりと引っ掻いていた。小さな動物のすることではあるが、さすがに傷がついてしまうのではないか。やめさせようとアンリが扉に近づいた時、ノックの音が鳴った。
レオンが帰ってきた。そう思うと余計にそわそわして、すぐに扉を開ける。
扉の前に立っていたのは、レオンではなかった。レオンに似ているが、違う人物だ。リスはアンリよりも訪問者の方が甘い匂いがするからか、彼女の肩に登っていった。
「久しぶりね」
「……姉さん」
彼女の声は、何も変わっていない。しかしあれから二十年近くの時が経ったのだ。その間に彼女は結婚し、子どもを二人育てた。
「貴方はまだ、私をそう呼んでくれるのね」
強気な口調は相変わらずだが、彼女の見せる微笑みは柔らかかった。やっぱりレオンの笑顔に似ていると、アンリは少し思った。
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