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第124話

「彼女に謝らせて、償わせることもできるわ。むしろ、彼女はそうしたいと言っていた。アンリが望むなら……」  姉の言葉に、アンリは静かに首を横に振った。あの森に来たばかりの頃の自分であれば、償いを望んだかもしれない。しかし、ひとりで暮らしていくうちに、顔も薄れていく犯人候補への怒りは忘れてしまった。森で暮らしている間、復讐よりも疑われるしかなかった自分への、そして独りで惰性に過ぎゆく自分の人生への憐れみの方が勝っていた。 「……そうね。貴方なら、謝罪も償いも望まないかもしれない。あの子がそれを帖地で真犯人を突き止めようとしたのは、貴方がいつ私のもとに帰ってきてもいいようによ」  今、アンリを責める者はどこにもいない。姉の住む屋敷に身を寄せても、歓迎はしてくれるのかもしれない。しかし、アンリはすぐに頷くことができなかった。 「彼が……レオンが、それを望むなら」 「似た者同士ね。あの子も、いつも貴方の望むことをって、そればかりだったから」  それから、彼女は笑った。 「私が育てた子だもの。胸を張って、いい子だって言えるわ。一途だしかっこいいもの。ひとりで突っ走っちゃうところが玉に瑕だけど」 「うん、かっこいいと思う。初めて会った時は、鶏につつかれてたけど」 「えっ、なにそれ?」  しばらくの間、何を話せばいいかなんて気持ちを忘れたかのように、二人で他愛の無い話ばかりした。森でどんなふうに暮らしていたのかとか、姉の作るケーキに使う砂糖の量は、年々増えていっていることだとか。  しばらく話した後、姉は急に口を閉じた。少し深呼吸をして、決意をしたかのように言う。

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