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第125話

「あのね……二人の邪魔をするつもりはないの。でも、ここにいる間、ケーキを焼いたら、持ってきてもいいかしら?」 「姉さんが、邪魔になるはずないじゃないか」 「でも、ここに泊まっているからには、もうすぐ番うのよね」 「え……?」  話は思ってもみない方向に転がっていく。たしかに発情期はもう数日したら来る予定で、彼も「それを見越して宿を長めにとった」とは言っていた。しかし、アンリはてっきり発情期中に無理をさせたくない彼の優しさだと思っていたし、そもそも姉がアンリの発情期を知るはずもない。 「この宿屋のこと、知らない? 最近ちょっとした名所になってるのよ」 「綺麗な宿だな、としか思わなかったけど」 「……あの子、またひとりで突っ走ったわね」  アンリが今泊まっているのは、古いが趣のある宿だった。階段の窓にはステンドグラスがはめこまれ、踊り場には色とりどりの光が射し込んでいる。部屋もシックではあるが、使われている家具はアンティークばかりだ。そして、宿の入り口には、由緒がありそうな女神の彫像が置かれていた。 「その女神、愛の神様なのよ」  この国で初めて、オメガと呼ばれるようになり、番という概念を生み出した女性を、女神として祀っているらしい。そしてこの宿は、一説では、その女性が初めて番となるアルファに出会った場所に建っているのだとか。今では、この宿は番いたいアルファとオメガの聖地と化しているという。 「……無愛想な顔も笑った顔も見たことあるけど、そんな顔は初めて見たわ」 「み、見ないで……」  アンリは、耳まで真っ赤になっていた。  しばらく姉にからかわれた後、廊下から足音が聞こえてきた。

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