「だめです、ご自分をそんな風に扱っては」 「きみに何がわかる……っ！」 「わかりませんけど、ご自分をそんな風に扱ってはいけません。ハルさまが傷つきます」 「……ベータふぜいが……っ、……あ」 　突然口をついて出た差別的な言葉に、ハル自身もまた慄然とした。 「いや、これは……す、」 　すまない、と言えばいいのに、ただそれだけの簡単な謝罪を口にすることができない。ハルは強い違和感と罪悪感を覚え、唇を噛んで黙り込んだ。 　記憶が確かならば、大庭遥ことハルは、ハル・ロゼニウム・ガーディナーとして、十八禁ＢＬ恋愛ＲＰＧ『ベータはアルファの誓約に』の世界に転生したことになる。しかも役どころは主人公でもモブでもない、悪役令息のオメガだ。 　十八禁ＢＬ恋愛ＲＰＧ『ベータはアルファの誓約に』は、オメガバースの価値観を根底に据え、十九世紀欧州の寄宿学校をモデルとしたラインボルン学院高等部を舞台に展開する物語だ。主人公は、ベータでのちにオメガにクラスチェンジする、ララ・フランシス。その攻略対象は、ウィリスとトーリスのほか二名の合計四名。いずれもアルファである。 　そして重要なハルの役どころは、悪役令息という憎まれキャラだ。ことあるごとにララを目の敵にし、いびりまくって、ついには学院中の失望を買い、三年生の不良学生モーリジィをはじめとする輩にさらわれ、輪姦破滅エンドを迎える。 　転生前、ある理由から『ベータはアルファの誓約に』を徹底的にやり込んだ記憶のあるハルは、ララ・フランシスに与えられるはずの輝かしいエンディングの裏で、悪役令息のハル・ロゼニウム・ガーディナーが輪姦され破滅することを知っていた。そしてララ・フランシスが、四名いるアルファの誰とくっついても、それは変わることがない。