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第12話 ハル・ロゼニウム・ガーディナー3
その時だった。
「それは実に良いことだ、ガーディナーくん。ところで、きみに謝罪したがっている上級生たちがいるんだが、どうする?」
「パリス先生……」
いつの間にいたのか、まるで気配を感じさせなかった、栗色の長髪を背中で結んだ、たおやかな青年が、ハルの横たわるパイプベッドへと歩み寄った。二十代後半ぐらいのパリスは、柔らかな物腰でそう言うと、おもむろに後ろを振り返った。
パリスの後ろには、白いシャツを捲り上げ、泥だらけの手足で頭を掻いている上級生が数名、恐縮した面持ちでハルから目を背けていた。
「彼らは?」
ハルが問うと、パリスは愉快げに肩を竦めた。
「きみに泥団子を見舞った犯人らしいよ」
「ど、どうも申し訳ありませんでした、ハル……まさかあなたに当たるなんて……」
青ざめた顔の上級生たちは、頭数を数えるまでもなく、全員が青くなっている。
(! これだ! よくきた! 下僕ども!)
ハルが腹の中でガッツポーズを作ると、ウィリスが不満げに鼻を鳴らした。
「ララをリンチしたことより、ハルに泥団子を当てたことを謝るんですか?」
確かに、ハルは被害者だが、もらい事故である以上、謝罪はまずララにもするのが筋というものだ。
しかし、上級生たちはそんなことはお構いなしに、ハルに対してだけ頭を下げた。
「どうか、このことは実家には御内密に……よろしくお願いいたします……!」
「ふん……」
上級生のアルファたちから盛大な謝罪を受けたハルは、内心、黒いものが吹き出すのを感じた。彼らがなぜ青くなっているのか、その理由に思い当たったからだった。
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