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第13話 ハル・ロゼニウム・ガーディナー4

 ハルの家はいわゆる太い家だ。毎年、ラインボルン学院に多額の寄付をする。社交界でもそれなりの地位におり、付き合いが広く、影響力ははかり知れない。ガーディナー家の令息であるハルに怪我をさせたとなれば、当然、その責任は学内だけで済まされるとは限らない。ハルの容体と、本人がどれぐらいこの事態を深刻に捉えているかにより、学院内で守られている生徒たちはともかく、その父母や親類縁者、友人関係にいたるまで、ガーディナー家の意向に背いたと知れれば、どんな目に遭うかわからないのである。彼らは、それを恐れているのだ。  ともあれ、ハルの下僕たちがやり過ぎてくれたおかげで、突破口が開いた。ハルは悪戯のしすぎに反省しきりな上級生に対して悪役顔をつくると、静かにニヤリと笑った。 「揃いも揃って泥団子なんてつくる暇があるんですから、さぞ学業を立派におさめられていらっしゃるのでしょうね?」 「う……」 「植木鉢の件にしろ、泥団子の件にしろ、想像力をたくましく働かせたら、あんなもの、当たりどころが悪かったら今頃死んでたかもしれないのに、おれなら恐ろしくて、とても手ぶらで謝罪になど」 「うう……」  鼠をいたぶる猫のように、上級生をひとしきり嬲ると、隣りで聞いていたウィリスとトーリスとララに一度視線を戻し、ハルはベッドの上でふんぞり返った。 「ま、今回は不問に付してさしあげてもいいですよ。ただし条件がありますが」 「条件……っ、の、飲みます! 飲みますので、どうかこのことは……!」  この上級生たちはハルの下僕も同然だ。ガーディナー家の跡取り息子であるオメガのハルが誘惑すれば、何でも大抵のことは言うことを聞く。アルファとしてハルとつがいになれれば、家格が上がり、名誉だと思っているアルファたちばかりだからだ。アルファとしての名折れだとトーリスは言ったが、オメガのハルの相手としても、彼らは少々器が足りなかった。彼ら上級生たちは元々ハルでなく別の派閥に属していたが、仮の主人といえども主人は主人、仮にもその主人に牙を剥いた代償は支払わせるべきだった。 「いいんですか? 内容を聞かないうちに首を縦にふるような真似をして。交渉術を初歩から学び直した方がいいのでは?」 「そ、それは……」  ハルが悪役顏で迫ると、相手は大抵黙る。加えて、今回はハルの言うとおりに動きすぎてハルを害してしまったわけなので、相手も謝罪に必死の様子だった。

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