31 / 179

第31話 紳士淑女のお茶会5

 ここでララとの主従関係を認めずうやむやにしたら、それこそガーディナー家の家名に土が付く。  それに、アルファはきっとわかっていない、とハルは思った。遠回りに接するだけで、踏み込もうとしない慇懃な対応は、透明人間に色がついただけのオメガ、という認識を周囲に浸透させる。それがどれだけオメガであるハルに悔しい思いをさせたか、ここにいるアルファたちは何も知らない。アルファは自分が世界の中心だと思っている。ハルもその価値観に慣らされてしまい、編入してきたベータを排除しようとしたが、今はそれが間違った行為だったことを認識していた。  それに、優秀なアルファを生むのはアルファだけではない。オメガもまた、アルファを生み育てる土壌なのだ。  透明な膜でも張ってあるかのように、誰も本気では相手にすることのないオメガ。  そして、同じようにやんわりとではあるが、確実に排斥されるベータ。  今、自然にできあがっている差別意識に目を瞑れば、転生前記憶のない頃の、差別と特権階級意識にまみれたハル・ロゼニウム・ガーディナーと同じ、薄汚れた人間になってしまう。  だが、周囲の注目を一身に集めたハルは、衝動に任せて持論を展開したものの、彼らの戸惑いに似た反応の冷たさに、カッと頬が火照るのを感じた。 「そ、そう見てばかりいられると、ララが命令しづらいだろ。こい、ララ!」 「あっ、ハルさま……っ?」  ハルは他人のせいにして立ち上がり、ララの手首をむんずと掴むと、お茶会のパラソルから出て、そのまま広い庭の向こうへと駆けて行った。

ともだちにシェアしよう!