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第34話 権利3

「……ハルさまは、優しい方ですね」 「は……?」  何をどう解釈したらそういう風に捉えられるのか、まるでわからない、という顔をしたのだろう。ハルが傍らを振り返ると、ララは眉を下げて困ったような顔で笑った。 「だって、ぼくのためにここまで連れてきてくださったし」 「あ、あれはきみといると、おれが恥ずかしいから連れてきただけだ。優しさじゃない」 「でも、ぼくを慮ってくださったから、お父上にぼくがベータであることを黙っててくださったんでしょう?」 「ば、っかじゃないのか。そんなわけないだろ。あんなの、自己保身以外の何物でもない。きみのことなんか、これっぽっちも考えてないぞ、おれは」 「それでも、ハルさまは優しいです」  ララは、全幅の信頼を寄せるような顔でハルを見た。その視線の強さと優しさに、ハルは心の中に固まっていた黒い澱のようなものが、浄化されてゆくのを感じた。 「ふん。せいぜい、好きなように取ればいい」 「はい。ぼくが思うに、ハルさまは」 「?」 「照れると鼻でお笑いになられます」 「なっ……!」 「ぼくにそういう癖を出してくださるのが、嬉しいです。ハルさま」 「ふ、ふん。そんなことを言われたって、これっぽっちも嬉しくないぞ!」 「はい」  ララの聖母のような笑みに釣られるようにして、ハルはしばらく黙った。頬が染まっていく気がして、ララの顔をちゃんと見られない。思えば、今まで自分のことばかりを気にして、周囲の人間がどんな環境で何を考えているかなど、深く推察したこともなかった。必要ないし、興味も湧かなかったからだ。  しかし、ララについては少し特別になりつつあった。

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