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第36話 権利5

「と、ところで、何か命令しろよ」 「え?」 「今はきみが王様だろ? やったことにして辻褄を合わせるとか、そいういう卑怯なのはなしだ。ほら、命令しろって」 「で、でも……」 「いいから。何でもいいから命令してみろ。今なら出血大サービスで聞いてやるから」 「では、その……もう一度、右手の甲にキスをいただけませんか……?」 「へ?」  もう一度、との言葉に、そういえば苦し紛れにララの手の甲にキスをしたことをハルは思い出していた。 「そんなんでいいのか?」 「それがいいんです!」  手を握って力説するララの頬が、心なしか潤んでいる気がするのは、きっと気のせいだろう。ハルはララの右手を取ると、サービスをしてやると言った手前、その場に跪き、そっと口づけを落とした。 「……ありがとうございます、ハルさま」 「別に」 「こうして体温が感じられると、安心しませんか?」 「ふん。まあ、しなくもない気がするな」 「ぼくは安心します。同じ人間で、同じく赤い血が流れているのだと感じられて」 「赤くとも、中身は微妙に違うけどな。おれはオメガだし、きみはベータ、ウィリスやトーリスはアルファだ。どんなに共通項を探したところで、嫌でも違いは目に入ってくる」 「でも、ぼくは少なくとも、ハルさまの体温に安心します。どうしてなんでしょうね、不思議です」 「きっとベータはお手軽にできてるんだろ」  照れ隠しのためにツンとしてしまうが、もう今のハルには、ララの反応に一喜一憂することはなくなっていた。ララが信頼を込めて握ってくれる、その手のおかげで。 「ふふっ、そうかもしれません」 「も、もう少し、握っててもいいぞ」 「はい。ハルさま」 「そ、その「さま」だ!」 「え?」 「呼び捨てにしていい権利をやるから、ここでのことは……黙っていろ!」 「ふたりだけの内緒ですね。はい。わかりました。……ハル?」 「あ、あんまり呼ぶなよ。恥ずかしいだろ」 「はいっ」  ララの蕩けるような微笑を得て、ハルは心の中が暖かなもので満たされる気がした。

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