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第37話 大庭遥1
大庭遥は傲慢な男だった。
日英のハーフで、父親が日本人、母親が英国人だったが、母親は遥が二歳の時に、父と子を捨て国に帰ったきりだった。父親は酒と賭け事がめっぽう好きなブルーカラーの労働者で、遥はネグレクト同然で育った。
茶色い髪、色素の薄い肌、榛色の眸。勉強はそこそこできたので、長じてからいじめはなくなったが、長く続いた受難の時代のせいで、すっかり性格がひん曲がってしまっていた。
家は貧乏で家事の類は全て遥がやっていたが、長じてからは父に金の無心をするのが嫌になり、高校に行きながらアルバイトをするようになった。
そこで容姿に目をつけられ芸能事務所からスカウトされた遥は、人生のひとつ目のターニングポイントを迎える。
遥の容姿が金になると知った父親に管理される生活は、最初こそ生まれて初めてかまってもらえるようになった嬉しさが勝ったが、やがて金目当てだとわかると、それを疎ましく感じるようになっていった。
幸い、事務所が金を出してくれるというので、イギリスの大学へ留学し、父との絆を絶った。四年で卒業し、インターン先の日系企業の日本支社の広報部に拾ってもらえたのも束の間、遥の容姿がものを言ったことが知れると、喜びもどこかへ飛んでいってしまった。
──あさましい。どうせまた身体で取ってきた案件だろ?
──見てくれのいい奴は楽だよなぁ、努力しなくても良くてさ。
陰口を叩かれながらも、遥は必死で仕事をした。ひとつには、自分を拾ってくれた企業への恩があったし、事務所に借りた留学費用の返済も理由になった。
だが一方で、自分を利用しようと近づいていくる人間は、徹底的に利用し返し、ゴミのように捨てた。
そんなある日、遥の平穏を脅かす事態が訪れた。
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